アスイク 代表のブログ

こどもの貧困問題、NPOの経営、生き方在り方などについて。

子ども食堂は、虐待予防の砦となるか。

11月は「児童虐待防止推進月間」なんですね。

年末にかけて虐待が増えるからなのか…と思ったけど、そうではないみたい。

ざくっと調べただけなので間違っているかもしれませんが、厚労省児童虐待防止対策協議会が設置されたのが平成11年11月だからのようです。

 

背景はさておき、啓発活動の一環として、各地で開催されるフォーラム。

何の因果か、子ども食堂をテーマにしたパネルディスカッションにお招きいただきました。率直に言って冷や汗ダラダラですが、思考の整理もかねて子ども食堂が虐待問題にどう貢献するか、考えをまとめておきます。

 

個人的に、耳にするたびにモヤっとする「虐待」という言葉。マスコミで取り上げられる事件のイメージもあって、虐待は、糾弾すべきもの、一部の異常な親がやること、という受け止め方が強い感じがします。

でも、虐待への過剰反応は、子育てに難しさを抱えている親を社会から孤立させ、親の負の感情が子どもに向かってしまうサイクルを助長しかねない。それに、虐待は自分の“外”にあるという考えは、我が事として虐待が生まれにくい社会をつくっていくことにつながらない気がします。

虐待は、もっと幅の広い行為であって、程度の差こそあれ、誰にでも起こしうる可能性があるもの、と捉え直す必要があるのではないかと思うのです。

「実は子どもを虐待してしまっているかもしれない…」、「いやいや、実は自分も昔はね…」と、虐待を口にしやすい社会をつくっていくことが、究極の虐待対策なんじゃないか。

ただ当然、法的な裏付けをもって介入しなければならない、緊急性の高いケースもあります。大切なのは、「緊急性の高い虐待」、「誰にでも起こし得る虐待」の両面から、この問題を捉えていく視座ではないかと思います。

最近は、虐待に代わるものとして「マルトリートメント」(子どもを怒鳴るなどの行為も含めた、不適切な養育行動の総称)という言葉が注目されていますね。ここでは虐待という言葉を使いますが、マルトリートメント的な意味合いを含めて使っていると認識いただければ嬉しいです。

 

さて、本題に戻りまして、 子ども食堂が虐待予防にどう貢献するか。

これまた子ども食堂と一口に言っても、共生型食堂、ケア付き食堂といった大まかな分類があり、さらにそれぞれに、受け入れ年齢層、子ども以外の参加者の有無、開催頻度、時間帯、料金設定、実施場所、スタッフ体制、プログラム、(子ども食堂を使うか否かの)名称など、多様な要素があって、要は一口に言えません(汗)。

なので、とりあえずシンプルに、月2回程度、夜に公民館をつかって開催していて、主に低年齢の子どもと保護者が利用する、無料の食事とだんらんを提供するような子ども食堂を想定します。

図:虐待対策に子ども食堂が貢献できること

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まず右下。保護者が参加する子ども食堂では、ここが虐待予防にもっとも貢献できることだと思います。澱のようにたまった保護者の不満や不安をはき出してもらったり、受け止める。それで保護者自身の気持ちが軽くなったり、自分の行動を振り返る余裕が生まれる(心のスペースづくり)。

さらに、同じような悩みを抱えた保護者同士がつながって、お互いを支え合う関係が生まれることで、上のような心のスペースづくりがもっと持続的なものになる。

実際に、他県からほぼ一文無しでやってきた母子家庭が緊急支援的にこども食堂につながり、他のシングルマザーから「ここの公営住宅はおすすめ」、「あそこのスーパーは安い」など、当事者ならではの生活情報を教えてもらうような場面もありました。

以前、学生ボランティアから「子どもをダシにして保護者が子ども食堂に来るのは、保護者のための子ども食堂になってしまって、よくないんじゃないか」と言われたことがありますが、保護者のための子ども食堂、大いに結構じゃないですか。

表現の良し悪しはさておき、むしろ子どもをダシにして集える場所だからこそ、子ども食堂は良い取り組みなんじゃないかと思います。私たちも、保護者向けの茶話会とか、自治体の委託でひとり親向けの講座とかやってますが、いつもものすごく苦労するのが集客。特にひとり親に顕著ですが、ただでさえ忙しい保護者が物理的に集まるのって、かなりハードルが高いと痛感してます。

 

次に左下、親から好ましくない関わり方をされている子どもに何ができるのか。やはり、その気持ちを受け止めることは大事だと思います。たとえば、親に怒られた、誰も自分の気持ちをわかってくれない、といった感情を受け止めることで、心にスペースが生まれるのは子どもも同じですし、それが子どもの発達にとって望ましいことであるのは言わずもがなです。

ちょっと難しいのは、親がいるスペースではなかなか口にできないこともあるかもしれないこと。食事後のアクティビティの際には、保護者と子どもを別の空間に分けるような工夫も必要かもしれません。

子ども食堂の良いところは、何と言っても食事という子どもと仲よくなるための強力なツールがあることだと思います。ご飯を一緒につくるという共同作業、ご飯を同じテーブルで一緒に食べるという物理的な近さと時間。特別なスキルがない人でも、子どもと距離を縮められる要素が詰まっているなぁと改めて関心します。普段現場をもっておらず、子どもたちから見れば「誰だこのおっさん」状態の僕でさえ、年1回のキャンプではかなり子どもと打ち解けることができるのは、自然の解放感もあるでしょうが、一緒にご飯をつくり、同じテーブルをかこむ時間があることの効果が大きいです。 

子どもに対してできることのもう一つは、見守りです。見守りというと色んな意味合いがありますが、たとえば普段の家での過ごし方、子ども食堂での精神状態や健康状態、発言や行動の内容など、さまざまな角度から子どもの様子を観察しておくことで、異変があったときに早めに気づき、保護者のケアをするなどの対応が可能になるでしょう。気をつけなければならないのは、やりすぎは逆効果になること。家で困ったことがないか執拗に子どもに尋ねたり、ちょっと膝をすりむいているのを見て大ごとにするような子ども食堂は、親の立場になれば御免こおむりたくなりますよね。

見守りに関する実例を紹介すると、数年前にちょっと複合的な課題を抱えているご家庭の子どもが参加していました。 子どもがある事件を起こしたことをキッカケに、要対協(要保護児童対策地域協議会。地域の様々な機関による子どもの見守りネットワーク)に私たちも参加して、子ども食堂での様子などを情報提供しました。往々にして、子どもは学校では見せない一面を持っていることがありますし、そもそも不登校の子どもであれば誰も子どもの様子がわからない、ということもあります。生活保護ケースワーカーも、親とは面識があっても、子どもとは会ったことがないという話もよく聞こえてきます。子ども食堂しか知らない子どもの情報があることも少なくないでしょう。

 

虐待対策としてこども食堂を見るときに難しいのは、上段の二つ。子どもが日常的に暴力を振るわれている、頻繁に食事を与えられていない、家から追い出されている、性的な被害にあっている…。そういった緊急性の高い場合に、どうするか。

保護者に相談機関を紹介して、それで解決するならば、誰も苦労しません。よっぽどの関係ができていなければ、どこそこの機関に行ってみたら、と言った瞬間にばっさりとシャッターを下ろされて、そこで子ども食堂とその家庭の関係はおしまいです。

じゃあ、児童相談所に通告すればいいか。確かに、要保護児童の通告義務は児童福祉法第25条にも明記されていますが、児相に通告してすぐ問題解決というケースは、残念ながらほとんどない気がします。たとえば、こんなケースがありました。

 

親からの虐待を訴えてくる子どもがいる。でも、どこまでが本当でウソか分からない。児童相談所に通告しても、相手にしてくれない。そうこうしている間にも、子どもは次々に窮状を訴えかけてくる。対応を間違った結果、親とももめてしまい、毎日のように怒り、脅しのメールが送られてくる。何もできないことに、スタッフが自己否定に苛まれ、疲弊し、組織もギスギスしていく。一体、どうすればいいのか…

 

ネグレクトが疑われる子どもがいる。本当の可能性が高いと思われるけど、もしかすると事実じゃないかもしれない。そして、この家庭に関わっているのは私たちしかいない。児童相談所に通告すれば、確実に通告元がばれ、家庭との関係が切れてしまう。そうなれば、子どもの唯一の居場所、社会とのつながりがなくなってしまう。子どもが居場所を失うリスク、ネグレクトを受け続けるかもしれないリスク、どちらに対応するのが正解なのか…

 

いずれのケースでも必要なのは、専門性をもったスタッフと対応に費やす時間、そして関係機関との連携によるチームアプローチです。今でこそ、私たちの組織には優秀なソーシャルワーカーがいて、児童相談所をはじめとした地域の機関とのネットワークもあるので、上のようなケースにも組織的に対応できるようになりましたが、そこに至るまでには無数の痛みがありました。こちら側が精神的にまいりかけたのも、一度や二度ではありません。

それを草の根の市民活動である子ども食堂に求めるのは難しいかもしれない。子ども食堂の約半数は、個人やボランティアグループが担い手です(出所:「地域社会におけるセーフティネットの再構築に関する研究 調査報告書」、阿部・千葉・村山、2018年)

 

保健センター、コミュニティソーシャルワーカー、子育て世代包括支援センター、子ども家庭総合支援拠点、子ども若者総合支援センター、地域の社会資源の実情に応じてさまざまな可能性があるとは思いますが、子ども食堂に緊急性の高い虐待への対応を期待するのであれば、子ども食堂が受け止めきれないケースをサポートする機関・担当を明確にすることは不可欠だと思います。

 

※本文ではいくつかの事例を紹介していますが、いずれも実際のケースを組み合わせて創作したものであり、特定の子どもや家庭を取り上げたものではないことを補足しておきます。